日本ハンザキ研究所 訪問記


来年の50周年の集いでの記念講演出演へのお願いを兼ねて、白鷺小舎の近所で
活動されている、日本ハンザキ研究所所長の栃本先生を訪ねましたので報告いたします。

「ハンザキ」とは、「オオサンショウウオ」の戦前の標準和名で、意味は「半裂き」です。
体が半分に裂けているかのように見える、その大きな口が名前の由来となっています。

栃本先生は、姫路市立水族館の館長を定年退官された後、念願であったハンザキ研究所を
朝来市黒川に設立され、ハンザキの生態の研究や保護に尽力されています。
ハンザキ研究32年の大ベテランです。

栃本先生のお話は大変面白く、あっという間の2時間でした。
栃本先生、お忙しいところ、時間を割いて下さってありがとうございました。

参加者

吉田(34C) 上野(36M) 金沢(52M) 小西(04Ls)
(名簿順・敬称略)

日本ハンザキ研究所 全貌
日本ハンザキ研究所 全貌
手前のテントは、人工産卵巣穴観察施設。
上から人工巣穴が覗ける仕掛けです。

日本ハンザキ研究所 入り口
入り口。元々この施設は、小中学校でした。
黒川地区に散在する集落の地図的中心に位置しているため、
どの集落からも十分離れています。
ハンザキ研究には非常に好都合、とのこと。

以下、私のメモを転記します。
当方素人なので、記憶違いなどあるかも知れません。

マイクロチップ


ハンザキの左肩にマイクロチップを埋め込んでいる。
市川源流域に生息する推定1,350匹のうち、埋め込み完了した個体は750匹。

以前は尻尾の縞模様にて個体を判別していたが、マイクロチップを利用することにより
判別が迅速に行えるようになった。当地に限らず、ハンザキのいわば「戸籍」が非常に充実している。

マイクロチップの寿命は半永久的で、棒の先端につけられたセンサーをハンザキの左肩に
かざすことで、非接触にて個体の判別が可能。

生態


ハンザキは「両生類」。セキツイ動物であります。

えさはアナゴ・ニジマス等の川魚。昆虫等も捕食する。
捕食の仕方は、川底にてじっと待つ。目の前にこれらのえさが現れると、
大きな口をあけて、えさを「吸い込む」。

⇒同じ両生類の、カエルのような感じでしょうか。

当地のように溶存酸素が豊富なところでは、皮膚呼吸にて呼吸が十分可能で、
肺呼吸をする必要がない。したがって、息継ぎをするため頻繁に水面に顔を出す必要がない。

調査の結果、毎日巣穴から顔を出す個体は少数で、平均すると3日に1回、中には
週に1回しか外に出ない個体もいる。出てくる時間も個体によりまちまちで、
基本的には夜行性だが、昼に出るもの、深夜に出るもの、早朝に出るものなど個体により様々。

⇒半ば引きこもりの生活。毎日頑張って定期的に捕食する必要がある哺乳類からすれば、羨ましい限りです。

繁殖方法は、体外受精。オスが条件のよい巣穴(きれいな水が伏流して出てくる横穴)を取り合うため、
大きい個体が小さい個体を、かみ殺すことがある。オスが守っている巣穴にメスがやってきて、
産卵する。卵はオスが守る。一度に1匹当たり300〜700卵。

⇒立派な家を建てて1人その中に座っていても、ヒトのメスは向こうからはやって来ません。
むしろそういう個体はヤバいと思って差し支えありません。特に何かが優れている、ということもなく、
普通の個体であれば、巣穴から出て、別途時間と金をかけて探す必要があります。
不用意に行動してかみ殺されるということはないのですが、立派な家があればよい、というものでもなく、
ここは哺乳類の難しいところですね。

野生でマイクロチップの埋め込みが可能なサイズまで成長するのは、5,000〜6,000卵に1〜2匹程度。
戦後に始まった河川工事の影響により、ハンザキの生態系は脅かされていたが、国土交通省の政策転換により、
近年では環境を重視する工事に変わって来ている。ハンザキは法律により、採取が禁じられているため、
人間が食べることが出来るような大きさにまで成長した個体が捕食されることがなくなったことともあわせて、
ハンザキには好都合に働いている、とのこと。

⇒地元の人によれば、ハンザキは白身の淡白な味でなかなかうまかったそうです。

野生でも共食いすることが最近判った。80cmの個体から40cmの個体のマイクロチップの反応が出たことから判明。
ハンザキの成長は通常1年に1cm程度のため、短期間に倍のサイズになることは考えられないため、
よくよく調べると80cmの「腹」からチップの反応が出ていた、ということがあった。

⇒繁殖期にはオス同士が殺し合い、食料の都合がつかなくなれば共食いすることも辞さない。
のんびり暮らしているように見えて、なかなか過酷な世界ですね。ヒトの世界にも過酷な生存競争はありますが、
こう見ると、そういう「競争」がある社会のほうが、むしろ「自然」にも見えます。

ハンザキの寿命については、人工飼育の最長記録は江戸時代にシーボルトがオランダに持ち帰った個体の
51年間生存という記録で、生きている限り永遠に成長を続けるハンザキの体長を考えると、好条件が揃えば、
100年程度は生きるのではないかと考えられている。チップを埋め込み始めたのは、寿命の長さに比べれば
つい最近のため、今後の研究が待たれる。

ちなみに、この頃まで成長を続けると、150cm程度になる。
ハンザキは日本の固有種ですが、お隣中国のチュウゴクオオサンショウウオと並んで世界最大の両生類です。

最後に印象的だったのが、人間の繁栄が、陸上の「赤潮」であるというお話し。
ヒトという1種類の生物が陸上で繁栄して、生態系に影響を与えている様は、
海中で数種類のプランクトンが異常発生して、生態系に影響を与えている様と同じである。
というお話しです。我々の存在そのものは消すことが出来ませんが、出来るだけ環境に負荷をかけない
生活を心がけたいものです。

こちらから日本ハンザキ研究所 ニュースが読めます。

注意事項


ハンザキ(オオサンショウウオ)は動作は速くはありませんが、川辺の横穴に不用意に手を突っ込んだ場合、
そこにハンザキが居れば反射的に指をかまれることがあります。

「ハンザキ」の名前の由来の通りの大きな口を持っていて、仲間をかみ殺すことが出来る程度の歯を
持っています。

ハンザキ 素手
おお、この写真、そんなハンザキを素手でつかんどるやつがおる。
気をつけましょう。

出典はこちら。2001年のことですから、6年前のことであります。
本文の長老は、せせらぎ荘オーナーの杉野さんで、6年の間にせせらぎ荘は経営者が代わっています。
黒川温泉も、きれいに建て直しがされていますね。早いものです。


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