今回トレッキングの手配を依頼したRajuに車で迎えに来て貰い、市内へ向か
った。Kathmanduはマオイストのバンダ(ストライキ)中で、まだ午後7時だと
いうのに行き交う車や人は少なく、ひっそりとしていた。マオイストはここ数
年各地でドンパチやっており、ネパールの経済に深刻な影響を与えている。特
に一番の産業である観光は大きな打撃を受けているようだ。昨年来た時に比べ、
さらに観光客が減っているようで、外国人をほとんど見ない。
今夜のホテルはお湯が出るのが嬉しい。部屋代を聞くと40ドルもする。ネパ
ールの物価からすれば高級ホテルだ。当然お湯も出るはずだ、と思っていたら
停電し、朝まで復旧しなかった(-_-)ゞ゛ウーム
「まあ、いつも汚いKathmanduの空気がきれいになっていいんじゃない」な
どと考えていたが、町中の至る所に配備された警官や兵士の緊張した表情を見
ると、「いや〜すまんすまん」と心の中でつぶやきながら背中を丸めて立ち去っ
ていくのであった。
そのような雰囲気の中で双眼鏡を振り回すにはかなり勇気がいる。鳥がうろ
ちょろしている場所は、大抵緑の多い王宮や銀行など軍事的に重要な場所であ
り、そういった場所には警官や自動小銃を下げた兵士が警備している。そんな
場所を双眼鏡で見ていれば、マオイストの偵察に誤解され銃で撃たれても、私
以外文句を言う人もいないと思われ、飛び去る鳥を見ながら「おまえも命拾い
したな」などとこちらも渋い顔してぽつりとつぶやくのであった。
しかし、免許更新の視力検査を始まる前にすばやく両目で記憶するという必
殺技でクリアした私の裸眼で識別することはかなり難しい。そこで、上着の中
に双眼鏡を隠し、鳥が出たら素早く出して観察し、また隠すという技や兵士の
死角になる場所から観察するなどの技を使い、シキチョウやシリアカヒヨドリ
などをゲットしていった。
ただ、これらの技の唯一の欠点は、よけいに怪しいということである(-_-)
標高1300mのKathmanduからKathmadu盆地を取り囲む山を越え、標高約500m
まで下り、さらに標高約2000mまで再び登る、約8時間のドライブである。
さて、ゆっくり車の中で寝るかと目を閉じたが、道路は小刻みに左に右にカ
ーブし、しかも幅がせまく対向車を避けるため頻繁にブレーキを踏むため、前
後左右に体が振られおちおち眠ることもできない。日本の林道と変わらないの
だが、交通量は多く幹線道路みたいだ。
景色はというと曇っていてヒマラヤの高峰は見えず、双眼鏡で鳥を見ようと
するが1分で吐きそうになって止めた。
それでもまだ路面状態は良かったほうで、Trisuriで昼食を食べた後、再び
山を登り始めると舗装が無くなった。そして1時間後、とうとう道なのか岩場
なのか川なのかよくわからな くなった。車のすぐ脇は、 Trisuri川まで一気に1000mほ ど落ち込んでおり、ドライバー がミスれば、西部警察のように ごろごろ転がって落ちていき、 間違いなく死ぬ。もちろんガー ドレールなんても線バスが屋 根にまで人や荷物を載せて走 っているんだからすごい。屋根 に乗っている人は落ちへんのか なと思っていたが、やっぱり何 |
途中に落石注意の看板があった が、道にはひとの頭ほどの大きさの 石がごろごろ転がっており、「看板 いらんやろ」とかつっこんでいるう ちに、トレッキングのスタート地点 Bharkhuに着いた。Kathmanduから7 時間もかかったのに、140kmしかな いそうだ(>_<)平均時速20kmって原 付に負けてるやん。
いよいよヒマラヤへの第一歩だ |
その後Syaphruのロッジで今日見た鳥を図鑑でチェックしていると、ガジェ
ンドラがニジキジの♂の絵を指差し、さっき見た奴だという。確かにあの時Male
and femaleとか言っていたが、私には♂は見つけられなかった。彼はもちろん
肉眼、私は双眼鏡であった。恐るべしシェルパ族の視力。
それにしても見たいネパールの鳥第1位のニジキジ♂をいきなり外すとは、
がっくりだ。
Langtang Khola(川のこと)の支流のChopche Kholaまで下降し、再び尾根
を登ると、左手に朝日に輝くガーネッシュヒマールが現れた。今回初めて目に
する8000m級の山だ。天気は快晴、体調も良い。
Langtang Kholaへ向けて再び降りていると、道の真ん中に昨日見た目の周り
が赤い♀タイプのMonalがいるではないか。「デカイ!♂はどこだ?」その時、
ブッシュの中に飛び込む暗緑色の固まりが見えた。かろうじてニジキジの♂だ
ということはわかった(T T) ♀はやはり目の周囲が赤く、Birds of NEPALのイ
ラストとは違っていた。
その後Langtang valleyの底まで降り、Lantang Kholaに沿ってゆっくりと
高度を上げる。途中ビスケットとチャイで簡単な朝食をとった。目の前の木で、
カオグロムシクイとバフマユムシクイの混群が、実を盛んに食べていた。カオ
グロムシクは過眼線が黒く、歌舞伎役者みたいないかつい顔をしているのがお
もしろい。
さらに川に沿って針葉樹と広葉樹の混合林の中を進む。両側は1000m程の切
り立った崖で、めちゃ迫力がある。深い谷底歩いているので、初日の出を見た
のは10時ごろであった。
途中Bamboo Lodgeでシロボウシカワビタキを見た。こいつは赤茶色の体と
黒色の顔に真っ白な眉斑という配色が非常にきれいで、私の好きなネパールの
鳥の1種である。ネパールでは渓流沿いでよく見られる。その後キバラアカゲ
ラやオオルリチョウなどを見ながらジャングルの中を進んでいく。周囲の山は
昨日の雪で真っ白で、とても綺麗だ。
ガジェンドラは、驚異の視力で 鳥を見つけてくれ、私が鳥を見 ている間も嫌な顔せず待って いてくれるので、探すのが難し いチメドリ類も今回は何種類 も見ることができた。ただ、彼 はバードウォッチングのガイ ドではないので、識別は私の直 感が頼りである。
彼は鳥以外の事でも、こま |
太陽が上がってくると木の上積もった雪が溶けてドサドサと落下してきた。
最初はガジェンドラとsnow showerだとか言ってはしゃいでいたが、だんだん
服が濡れてきて寒くなってきた。 しかも登りがきつくなり、バテてきた時、Lama
Hotelの村に着いた。
チャンというお米から作ったどぶろくを飲んで、ダルバートを食べると、元
気が出てきた。ネパール族はヒエやアワから造る“ロキシー”という酒をよく
飲むが、シェルパ族は家庭で造るチャ ンをよく飲むらしい。味はフルーティ ーな日本酒のようだが、濾過していな いので米粒が口に入るのがちょっと気 持ち悪い。
ダルバートは、日本で言えばご飯と |
Lama Hotelを発ち、しばら く歩くと谷の向こうに真っ白 なLangtang Lirungのピーク が見えてきた。
だんだん雪が深くなり、靴
|
今日も元気良く出発する。毎日朝昼晩とちゃんと食事を摂り、暗くなったら
寝て明るくなったら起きるという生活を続けているので、日本で仕事している
時より体調が良いかもしれない。
3200mを過ぎると高い木は無くなり、低木がまばらに生える広いU字谷にな
った。雪原の上をユキバトの群が飛んでいる。ユキバトは翼下面はクリーミー
ホワイト、翼上面は上品なグレーをしており、雪で覆われた人気の無い谷底を
飛んでいる姿を見ると、何か神聖さを感じた。今回お気に入りになった鳥の1
種だ。
緩やかに谷底を登って行くと、キバシガラスが斜面に群れているのが見え、
その先にLangtang村が見えた。昼食はいつものごとくダルバートである。毎日
歩いているのでお腹空いているためか、1日2食ダルバートでも全然飽きない。
ネパールの人は1日3食ダルバートを食べることも少なくないそうだが、毎日
それではさすがに飽きると言っていた。例のごとく山のようにご飯をつがれ、
お腹いっぱいで動けない。チャイを飲みながらマミジロマシコ♂、ムネアカイ
ワヒバリが除雪された地面で餌をついばんでいるのを見ていた。Langtang村ま
で来ると、Langtang Lirunのピークは頭の上だ。
昼食後このトレッ キングの目的地であ るKanjin Gompaに向 けて出発した。空では ムラサキツグミの群 が飛び回っている。雪 山の白色に♂の紫色 が鮮やかで綺麗だ。
3400mを過ぎると |
3600m、3700mを過ぎ、大きな岩がある丘をやっとのことで越えると、Kajin
Gompaの村が見えた。地図を見ると標高3800mちょっと、富士山よりも高い地点
まで登った!目の前の岩でワタリガラスが「ゴァゴァゴァ」と鳴いている。出
迎えにしては色気が無いがまあいいだろう。
村の向こうにはTsergo Ri (4984m)のピークが見え、その向こうにはLangshisa
Ri (6427m)、Ganchepo (6387m)などが見える。空が青というより藍色に近い。
これがヒマラヤンブルーか。藍色の空に雪を抱いた白い峰々が非常に美しい。
ここで一泊して4000m程度の小ピークに登りたいところだが、明日の朝には
降りなければならないので、高山病がひどくならないうちにさっさとLangtang
村に戻ることにする。夕焼けに染まるLangtang Lirungが美しい。Langtang村
に戻っても頭痛は治まらず、その日はさっさと寝た。
歩き出すとまだ体が重く感じる。徐々に小さくなるLangtang Lirungを時折
振り返りながら降りていく。降りるに従って、だんだん空気が濃くなってくる
のが明らかに分かる。ほんま、空気ってうまいって思った。
しばらくして左手の河原に生えている木にチャムネヒタキが止まっていた。
腹のオレンジ色が美しい。お昼ごろThomnaに着いた。注文したダルバートがな
かなか来ないので、キバラアカゲラやキンバネガビチョウを見たり、崖に
mountain goatを探したりして時間を潰した。
Thomaを出発して1時間後、今日の宿泊地であるLama Hotelに着いた。今日
は初めて太陽が高いうちに着いたので、4日ぶりにシャワーを浴びた。ここらの
シャワーは太陽発電なので、天気が悪かったり、日が傾くと、ホットにならな
いのだ。
髭も剃ってさっぱりした後、散歩がてら村の中をぶらぶらした。藪の中を3
羽のアカバネモズチメドリが移動しているのが見え隠れしている。樹上では、
セアカウタイチメドリの群れが木の実を盛んに食べていた。
明日は5時起きなので、チャンを飲んでベットに入ったが、ネパール人ポー
ターの連中がうるさくてなかなか寝れず、0時にキレて部屋に行って日本語で怒
鳴ったら静かになった。
一昨日のKyanjinからの下りで痛めた右膝がなかなか完治せず、今日も次第
に痛みが強くなってきた。今日は12時間かけてKthmanduまで戻り、そのまま
関空行きの飛行機に乗るという超強行軍で、こんな所でもたもたしていられな
い。
出発して4時間後、谷を曲がるとSyaphru Besiの町が見えた。右膝の痛み
がかなり激しかったので、ひとまずホッとした。橋を渡り谷の中腹にある町ま
で最後の坂を上りきり、トレッキングのゴール地点であるSyaphru Besiの町へ
着いた!
ホテルの庭でチャイを飲んで一息いれた。向かいの崖にヒマラヤハゲワシが
悠然と飛んでいる。高山病や膝の痛みはつらかったが、今日の晩にネパールを
離れるとなると、物足りない感じがする。
ここから車に乗り換えKathmanduに向かった。途中Duncheでお昼にした。
高台にあるレストランで、テラスからチベタンヒマールが良く見えた。車で4
時間程度で行けるあの山の向こうはもうチベットだ。
帰りはKathmanduに近づくに従って道が良くなってくるので、気分的には楽
だ。来るときは検問はフリーパスだったのに、帰りは荷物を開けさせられたり、
チェックが厳しい。ガジェンドラに聞くと、私がネパール人に見えるらしい。
髪はぼさぼさ、顔は日焼けで黒く、確かに日本人ぽく無い(-_-)ゞ゛ウーム
標高約600mのTrisuliまで降りるとポカポカと暖かかった。ネパールは奄
美大島とほぼ同じ緯度なので、標高が低ければ1月でも暖かいのだ。Trisuli周
辺は平野部で田んぼが広がっている。田んぼではインドアカガシラサギが餌を
とっており、電線にはタカサゴモズやクロノビタキがとまっていた。車もほと
んど通らず、雪のヒマラヤから降りてきた身にはすごいのんびり感じる。時間
あればここで一泊して体力を回復したところだ。
車はKathmandu盆地を囲む山を登り始めた。ガジェンドラが気をきかせて、
道路に鳥がいるといちいち止まってくれるのだが、飛行機の時間が気になって
じっくり見てられない。というのも今日のフライトはかなりのオーバーブッキ
ングらしく、チェックインが遅いと乗れない可能性もあるので、午後8時には
飛行場に着きたいのだが、、、と思っているのだが、ミヤマハッカンの群れが
道ばたにいるわ、夕日に染まるヒマラヤの山々が綺麗だわ、なかなか先に進めな
い。モンゴルマン似のドライバーは午後5時には着くよって軽く言っていたが、
やっぱり5時を過ぎてもまだ車は山を登っている。
30分後やっと山を越え、さらに30分後Kathmanduの灯が見えた。そして、6
時半Rajuのオフィスに着いた。やれやれ、間に合って良かった。
チェックインはスムーズにいき、午前0時に飛行機は無事Kathmanduの地を
離れた。ホッとして寝ようとすると、深夜なのに夕食だと言って起こされ、さ
らに5時間後上海で飛行機から降ろされ、ほとんど寝れないまま日本に着いた。
最近マオイストが停戦に同意したと聞いた。マオイストのために、旅行客は
激減しており、会うのはリピーターがほとんどであった。まあ、新聞などでド
ンパチやっている記事を読んでわざわざ行こうとは思わないやろうけど。
しかし、トレッキング中特に危険を感じたことは無く、軍隊が出ている分か
えって治安は良いように感じた。マオイストはよく組織されており、外国人は
襲わないと聞いた。たまにカンパをさせられるらしいが、ちゃんと領収書をく
れ、以後はカンパを要求されても領収書を見せると払わなくていいらしい(-_-)
私は今年の年末も行くつもりだ。
以上
見た鳥のリストも添付しておきます。